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目的志向型の家庭学習を構築する -初学者への音読指導を例に考察-(藤本)

指導について 目的志向型の家庭学習を構築する -初学者への音読指導を例に考察-(藤本)

こんにちは。藤本です。

吉田塾渋谷校の運営体制が変わり、教室の方針や指導形態などさまざまな点について、清水先生・安達先生と日々議論を交わしています。本日は毎日課題についての話が出ました。吉田塾では現在、①毎日音読、②毎日英作文、③毎日英文法の3つの課題を配信していますが、渋谷校はこれを今後変更していく可能性があります。まだ議論の最中ですが、変更を考える上で僕の頭の中にあるのは「あらゆる学習行為は目的ベースで設定すべき」という考えです。僕の指導理念のひとつでもあります。

そこで、本日のエントリでは、「目的志向という発想に沿って学習行為(特に家庭学習)を構築するにはどのようにすべきか」という課題について、「音読」という行為を題材に考えてみたいと思います。指導者の方向けですが、学習者の方にも参考になると思います。特に現在大学生・社会人で自律して学習を勧められている方には読んでいただきたいです。では、本題に入りましょう。(以降の考察には英語は出てきません。すみません。)

言語学習には音読が有効だとよく言われます。僕自身、学校教育から音読をしてきましたし、生徒にも音読を勧めます。英文を書いた際は自ら声に出してみて、しっくりくるかを確かめます。周りの先生方を見ても、音読に肯定的な方はやはり多いです。予備校などの教室現場でもしっかり音読を取り入れている先生もいらっしゃいます。

学習・指導どちらの経験則から言っても、音読が語学学習を促進するという点は間違いないと思います。しかし、音読はどのように効果を及ぼすのでしょうか?  また、指導者は音読という手法をどのように用いることができるのでしょうか? 漠然と「音読は良いからとりあえずやろう」ではプロの職業講師としては浅すぎると思いますので、音読がどのように有効になりうるかを、具体的な生徒像を設定して考えてみます。

すでにこのブログでよく言及しています通り、僕が渋谷校で受け持っている生徒さんはほとんどが英語が苦手な中高生です。ここをもう少し具体化していきます。ざっくり以下のようなイメージでしょうか。

  • 英語を学校の授業外で自ら学習したことがなく、テスト前に少しワークをやったり単語を覚えたりする程度(生の英文をほとんど知らない)
  • 英語の音をほとんど知らず、声に出したこともない
  • 英語を書いたり話したりした経験が極めて少ない

単に成績が悪いというか、英語学習=テスト勉強(単語暗記+文法ワーク+教科書の日本語訳暗記)だと思っているタイプの学習者です。経験上、こういう生徒さんは前回、前々回から指摘しているような「慣れ」がありません。ですから、今後の英語学習の基盤を育てるという意味で、音読という手法を通して「慣れ」を養おうという発想をしていきます。まずはマテリアルの策定です。初学者であることを踏まえ、学習を継続しながら「慣れ」を達成できそうな教材の条件を整理してみます。

  • ある程度の量の、意味的にもまとまった英文のパセージがある
  • 大意がある程度わかっている
  • 本人のレベル感にとって知識的な負荷が大きすぎない
  • 適度なスピードとイントネーションを保ったネイティブ音源がある
  • 学習が短期的な成功体験に直結しやすい(内発的なモチベーションにつながるため)

このあたりでしょうか。手っ取り早いのは学校の教科書でしょうか。学校の授業で扱っているならば大意もある程度わかっている可能性が高く、テスト範囲に出るならば成功体験にも繋がりやすいです。ほか、市販教材も使えるかもしれませんが、その場合は負荷レベルを調整したり、大意の把握を手伝ってあげたりする必要があるため、慎重にならないといけません(「この子は英検3級を取得済みだから『文単準2級』を使おう」という発想ではダメということ)。

以降の考察にとっては重要ではないのですが、ひとまず学校の教科書を使うことに決めましょう。「学校の授業である程度内容がわかっている」ということを前提にし、生徒は大意を把握しているものと想定します。そうではない場合はここで新たな分岐が生まれますが、面倒なのでその場合は別エントリで書きます。

改めて、ここでの目的を思い出します。僕たちはいま、「英語経験が極めて少ない初学者に対し、英語的な直感を植え付けたい」という目的で音読という手法を選びます。英語的な直感にもさまざまありますが、ここではまずクリアすべき項目を絞ります。限定の仕方としては、意味や文法面ではなく、音声面に絞りました。

  1. 英語の音そのものの質感を身体経験を通して知る
  2. つづりから音をある程度想像できる(つづりと音声の関係に気づき、再編成できるまでのベースを構築する)
  3. 適切なフレーズ・チャンクの意識をつける(ここからここまでがひとつのユニットだろうと察することができる)
  4. フレーズやセンテンスが読まれるときのリズムやイントネーション、息のつぎかたなどが想像できる

以上はすべて、音読という学習作業を適切に行うことで習得が可能だと思われます。さて、家庭学習の手法を策定しにいきたいところですが、その前にやるべきことがあります。まず、上記の達成項目について生徒に目的意識を植え付けます。学習行為が単純作業にならないようにするためです。僕の経験ですと、ここに力を入れるか入れないかで学習効果は大きく変わります。生徒がきちんと目的志向で学習行為に取り組めるために、指導者は執拗とも言えるくらいに「何を達成しようとしているのか」について声掛けをしていくべきです。また、指導現場では、適切な取り組みを促すためのお膳立て行為(事前準備)を行うべきです。以下で各項目について指導者が何をすべきか考えてみましょう。

  1. 音の質感
    まずは音声を清聴することです。日本語とは違うな、という漠然とした感覚を得させます。まだ年齢層の低い初学者であれば、何がどう違うかは明確にはわかりませんが、質感の違いをまず感じ取ってもらいます。現場だと、どのように違うかを尋ねてあえて言語化させてみるのも良いと思います。次は「真似」です。音の再現を試みることで、より身体性が付与された形で質的差異が実感されます。ここでは必ずしも発音がうまくならなくとも良いので、「こんな音があるんだ」という感覚、あるいは「この文字(アルファベット、語のつづり、語と語のユニットetc.)はこの音なんだ」という対応感覚が実感に落とし込まれれば良いです。現場では単純に、①音を聞く、②違いを意識させる、③真似を促す、を繰り返して家庭における音読学習の下地をつけるのが良いと思います。
  2. つづりと音の関係性
    初学状態から音を欠如させたまま学習を進めさせると、のちのち、音変換においてまずローマ字読みが優勢になります。そうではないことを初学時から意識させないといけません。その意味で、音読に先立って「自分でつづらせる」というステップを踏ませることは有効に思います。しかし、単にノートに英文を写させるだけですと単純作業になってしまい、「つづり-音声」の関係性への意識が薄れます。そこで、たとえば教室現場では、以下のような手法を挟んでおくと良いかもしれません。
    ①英文を意味・構造面でのユニットごとにスラッシュで区切ったものを用意する。
    ②スラッシュごとに指導者がモデル音声となって読み上げる。その際につづりと音を記憶するように意識づけをする。
    ③生徒はそれを真似して読み上げる。②③を適当な回数繰り返し、音を記憶に定着させる。
    ④覚えたと思ったら英文を見ないまま、声に出させながらノートにそのユニットの英語を筆写させる。
  3. ユニット意識
    初学者の場合、たとえ大意が分かっていたとしても自らの力でユニット意識を感じることは難しいです。ですから、ここは指導者側が事前準備をしてあげるべきところだと思います。意味・構造上のかたまりごとにスラッシュを引いてあげるのが簡単でしょう。ただし、留意すべき点があります。まず一点は、意味との連動です。ユニットが単なる文字の羅列だと思われてしまうと、適当な数字をランダムに読み上げているのと変わりません。「ここの部分はこういう意味になっているよ」と簡単に説明してあげるのが良いでしょう。ある程度力のある生徒でしたら、自分で意味とりをさせるのも良いと思います。第二に、音読時の意識の向け方を共有することです。せっかくスラッシュで分けたのに、読み上げの際にパート内でぶつ切り音読をしたのでは意味がありません。指導者は、「スラッシュで分けたパートはかたまりだと思ってひと呼吸で読もう」と常に目的意識をリマインドしてあげるべきです。
  4. 全体としての読まれ方への意識
    全体を比較的スムーズに読めるようになり、ある程度余裕が出てきた段階でやっと意識が向くところです。上記の1〜3もそうなのですが、1回きりの音読ではおそらく達成は難しいでしょう。従って、この直感を身につけるために「同じ素材を何度も」というルールを足します。最初は生徒が自分で気づくのは難しいでしょうから、指導者は現場で音声を聴かせて現象を指摘してあげるべきですし、自身がモデルになれるのであれば、リピーティング音読を通して軌道修正をしていくべきです。「とにかく細部まで音声を真似る」という声掛けも積極的に行うべきです。

上記が家庭での訓練に効果を与えるための現場での挙動の例です。各達成項目について、家庭で行うことは教室でしていることのトレースになってきますから、ここを徹底しなければ家庭での音読学習もあまり効果がないと思います。世の中には「音読をしましょう」という言説は多いですが、この部分、つまり意識づけの部分で既に失敗していることが本当に多いように見受けます。

さて、では家庭での訓練方法を策定しましょう。話をいろいろと分岐させないため、初学者が上記の直感を養うことのみにフォーカスして考えてみます。たとえば、いま想定している生徒に対して以下の手法を提案するとします。皆さんはどのように思われますか?

「まずは音源を1回よく聴こう。そのあとで、それを思い出しながら真似をして読んでみよう。音源は絶対に聴いてから音読しようね。」

僕はこれは悪手だと思います。というのは、本当に音に慣れていない生徒さんは、音を聴いたとしてもそれが即座に頭の中に記憶されることはないと考えるからです。たとえ聴いて覚えようとしても、漠然とした記憶からなんとか思い出そうとするなかで、音読のスピード感やリズム感が阻害されてしまうと思います。結果、どの直感も養われにくいことになります。僕でしたら、たとえば以下の提案をします。

「音源を気持ち大きめに設定しよう。スクリプトを見ながら、聞こえてきた音をできる限り真似をして、音源のスピード感について読み上げよう。鉛筆を持って読み、読みにくいところは下線を引いておいて。20秒くらいの音源を使って、1日5回やろう。」

オーバーラッピングの手法を選択します。「音を気持ち大きめに」するのは、まずは音を聴き、聞こえた音ベースで再現をしてほしいからです。聴き取り作業と音読作業を分離せずに同時に行うのは、音の記憶という負荷を取り除くためです。「真似をする」は言うまでもありません。「スピード感について読み上げる」のは、英語の意味ユニットを詰まることなく声に出す訓練です。詰まったところ(ストレスポイント)は「鉛筆を」使って「下線を引いて」おけば、現場ですり合わせをすることもできます。「20秒くらい」の音声でしたらゆっくり目でも60 words程度じゃないでしょうか。節(SVのかたまり)が5個前後と考えると、量としては決して少なすぎません。「1日5回」という回数も少なすぎず、多すぎずです。1日1回は少なすぎます。やったあとにすぐに改善しようという意識が働きませんし、その意識が欠如してしまわざるを得ない時点で効果はありません。

目的指向型というのは、単に目的を設定するということではありません。上記のように、あらゆる指示に対して明確な理由付けができるということです。

「このタイミングでこれをやるのはこれを達成したいためだ」

これがはっきりとできて、はじめて指導は偶然の産物ではないものとして効果を発揮し、再現性のあるものにもつながっていくと思います。長くなったので、そろそろまとめていきます。

目的志向型の家庭学習を構築するためには、指導者は以下の点に留意すべきです。

  1. 学習者の既存知識・特性・思考回路・行動習慣などをよく観察し、対象に具体性を持たせる
  2. 学習者の課題点を察知する。
  3. 大まかな達成目標から、より具体的な達成項目に整理・分類する。
  4. それぞれの項目を達成できる実現可能なプランを考え、学習者と目的意識を十分に共有する。
  5. 指導現場は、目的意識の方向性を明確にし、場合によっては軌道修正を行う場として活用する。
  6. 家庭学習は具体的な指示出しをし、あらゆる指示に明確な理由付けができるようにする。

つらつらと思うところを書いてみました。読み物というよりは、指導に関する自分の思考整理を試みたようなエントリになりましたが、ここまで読んでいただけた方がいたとしたら非常に嬉しいです。ご意見やご批判はXにていただけましたら、そちらも自分の指導について振り返るきっかけになりますので大変ありがたいです。

ではまた。



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