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「慣れ」がなぜ重要か(藤本)

指導について 「慣れ」がなぜ重要か(藤本)

こんにちは。藤本です。

今日はこの前のエントリに補足して、初期の英語学習においてなぜ「慣れ」が重要になってくるかを考察します。学習者向けでも指導者向けでもあります。

前回エントリで、英語の「慣れ」(あるいは「直感」という言い方をしています)に関して以下のようなことを書きました。

「たとえば、[名詞 doing]という形はさまざまな解釈プロセスがありますが、あまり英文法を知らずとも経験則で「『doingする名詞』と読むのだろう」という直感が働きます。たとえ解釈が誤っていたとしても、この直感自体は大切です。」

言葉ではいまいちわからないという方もいらっしゃると思うので、英文を見ながら考えていきます。高校用の総合英語『ジーニアス総合英語 第2版』(大修館)からの英文からいくつか引いてみます。(括弧内はページ数)

(a) The flowers growing in this garden are all roses. (p.231)

(b) I often saw my father washing his car on Sundays. (p.257)

(c) She is proud of her son being a good basketball player. (p.229)

いずれも[名詞 doing]という形式が含まれています(太字)が、解釈プロセスは同一ではありません。僕の指導経験上、もっとも直感的な対処と思われるのは「doingを直前の名詞にかける(修飾する)」という対処法で、これが当てはまるのが(a)です。ある程度英文の処理に慣れた生徒さんであれば、この形式に気づいた場合はまずこの対処法を用いるのを見かけます。

(b)(c)はいずれもこの対処法では正確な解釈ができません。どちらも同一ではありませんが、「名詞がdoingする(している)」のように、前後部分が主語述語関係になるように意味とりをします。生徒さんを見ていると、(b)(c)のような英文でも、「直前の名詞にかける」という(a)のような読みが先行する方が多いです。

ただ、僕がここで注目したいのは「(b)(c)で多くの人が誤読をしがちである」という点ではありません。そうではなく、(a)のような「直前の名詞に修飾する」という読みが定着していればしているほど、(b)(c)のような「経験則からすると例外的」な対処法も素早く身につきやすいということです。直感的な読みが馴染んでいればいるほど、似た構造について差異が認識されやすくなり、経験が薄い規則への適応が早いように見受けられるのです。確固とした経験知が軸となり、そこを参照点にして新たな類似項目が発見・整理されていくのでしょうか。ここにこそ、学習初期段階で身に付く「慣れ」がその後の学習に与える効用があると思います。

効用はこれだけではありません。文法とはまた違った点で、もっと中高生にも馴染みがある例をあげてみます。たとえば、以下の英文は中高生への英検ライティング指導で本当によく見かける誤りの英文です。最近実際に見かけた英文を引いています。

Reducing the amount of plastic waste is very importance.
(意図した意味:「プラスチック廃棄物の量を減らすことはとても大切です。」)

決定的なミスは文末のimportanceです。ここは、形容詞のimportantに変えなければいけません。一見すると「なんだその程度のミスか」と思ってそれほど重視しない方もいらっしゃるかもしれません。「-anceは名詞の語尾で-antは形容詞の語尾だよ」と説明して流す指導者の方も少なからずいらっしゃるでしょう。しかし、僕からすれば、このミスは普通に英語学習をしていればありえない(=「直感」を欠いている)類のもので、このミスを見た瞬間に大きな危機感を抱きます。

というのも、important/importanceは中1の最初からずーっと毎日出てくるような超基本語です。厳密に数えたことはありませんが、学校の教科書およびその他普段使いの教材にも本当にたくさん、何度も何度も出てきているはずです。出会った頻度も高いはずですから、もっとも典型的な使い方は理屈というよりも、身体が覚えているべきものであるはずです。最初から「えーっと、-anceは名詞の語尾、-antは形容詞の語尾だったよなあ」とか考えて判断するようなものではまずないのです。それを頻繁に間違えてしまうというのは、明らかに身体経験に基づく英語への慣れ、あるいは反射神経、あるいは直感とでもいうようなものを決定的に欠いていると言わざるを得ません。(この手の間違いは、英語に触れたばかりの中学1年生ならまだしも、ある程度経験を積んでいるはずの高校高学年ですら頻繁にやってしまう点も指摘しておきます。)

思うに、「-anceは名詞、-antは形容詞」という枠組み的な知識は学習順序としては後付けであるべきです。X be importantという具体的かつ確固とした経験があるからこそ、be convenientやbe pleasantが直感的にしっくりきて、だからこそ「-anceは名詞、-antは形容詞」という知識が経験による裏付けをもって定着するのです。そういう意味で、「慣れ」段階で得た経験知が知識の関連や抽象化にも大いに貢献するはずであると言えます。

ほか、身体的に絶対に身についているべきもので言うと、発音や綴りまわりの知識というのも挙げられます。音声面での経験知の欠落は、最近の中高生に顕著です。たとえば、warを「わー」と読んだり、allowを「あろう」とローマ字読みしてしまうのは本当によくあります。僕から言わせればこのような知識は「大学入試用発音問題参考書」などでちまちま勉強するようなものでは絶対にありません。身体が知っているべきものです。身体が知っているからこそ、経験を積むなかで自ら抽象的なルールにまとめ上げられているべきものです。

上記のような考察を踏まえると、学習初期段階で「慣れ」を身につけることは、個々の知識の関連性を発見したり、抽象的な知識への再編成をしたり、あるいは例外的な知識を分類・整理したりする上で非常に重要だと言えます。身体的経験として身についている幹があるからこそ、以降の学習がより深みをもって実感に落とし込まれるのではないかと思います。

一個別塾としてできること、いや、やらなければならないことのひとつとして、英語学習の幹となる「慣れ」を身体経験を伴いながら養うというのは重要な課題だと考える今日この頃です。

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